【立原道造 - 最初に触れた詩 - 】

立原道造

青空文庫でも読めますし、

沢山アンソロジーとして今もなお綺麗なブックカバーを手に取る事が出来ます。

父の研究テーマということもあり、世界中の詩が所狭しと並んでいた実家の本棚で、父が1番好きな詩人 立原道造 の本を手に取りました。

正直、分かりにくいし、とってもファンタジーすぎて、そっと本棚に戻しました。

その後、小学生高学年の頃、通っていたピアノ教室の音大受験コースで、珍しく自由な先生と出会いました。

私たち生徒が次にやりたい分野を決めると言う、長期スパンコースならではの自由な授業でした。

そして、先生の作曲した合唱曲を歌う授業があり、作詞は立原道造『風の歌った歌』でした。

合唱とは凄いもので、今でも詩を音と共に諳んじることが出来ます。

東京音大作曲家コースを卒業された、変わった先生の作った綺麗なメロディーと美しい詩を、コロナ禍の鬱々とした夏の雨滴る午後、ふと脳裏を横切りました。

 

今観ると、とても腑に落ちる。社会にでて、初めて分かる事がある。

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立原道造 作詞

【風のうたつた歌】

その一

一日 草はしやべるだけ

一日 空は騒ぐだけ

日なたへ 日かげへ過ぎて行くと

ああ 花 色とにほひとかがやきと


むかしむかし そのむかし

子供は 花のなかにゐた

しあはせばかり 歌ばかり

子供は とほく旅に出た


かすかに揺れる木のなかへ

忘れてしまつた木のなかへ

やさしく やさしく笑ひながら


そよぎながら ためらひながら

ひねもす 梢を移るだけ

ひねもす 空に消えるだけ


その二

森は不意にかげりだす それは知らない夢のやうに

水や梢はかげりだす 私がひとり笑はうとする

くらく遠くの叢(くさむら)に――


そのあとちひさな光が溢れ 葉は一面に顫(ふる)へだす

森は風を待つてゐる 私は黙つて目をとぢる

私は逃げるうすい綿雲を見ないため

空に大きな光が溢れ 私はだんだん笑ひだす

 

その三

いつまでも動いてゐたら かなしかつた

うたは消えて行つた

 

呟きはおんなじ言葉をくりかへし

よたよたと夜にまぎれた

――夜を待つたのに


すこし駈けたら


葉が息をひそめ それからあとはいつまでも笑つてゐた